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取適法(中小受託取引適正化法)「下請法はうちに関係ない」は本当か。建設業者と取適法
下請代金支払遅延等防止法(下請法)が改正され、令和8年1月1日から「中小受託取引適正化法(取適法)」として施行されています。建設工事の下請けには適用されません。ただし、建設業者が関係しない法律かというと、そうではありません。
令和8年8月27日
結論から書きます。建設工事の再委託、つまり工事の下請けには、取適法は適用されません。この部分を担うのは、従来どおり建設業法です。
問題はその先です。建設会社が外に出しているのは、工事の下請けだけではありません。資材、図面、運送。これらは取適法の対象になり得ます。公正取引委員会も、まさに同じ質問をQ&Aに載せています。
公正取引委員会が挙げている、建設業者の該当例
公正取引委員会の「よくある質問コーナー(取適法)」では、「建設業者には本法の適用がないと考えてよいか」という問いに対し、次の例が示されています。
建設業者が、請け負った建設工事に使用する建設資材の製造を他の事業者に委託する場合。建設資材を業として販売していて、その製造を委託する場合も同じ。
建設業者が、請け負った建築物の設計・内装設計、工事図面の作成を他の事業者に委託する場合。建売住宅を販売する建設業者が設計図等の作成を委託する場合も含まれます。
建設業者が建設資材を業として販売していて、その販売先までの運送を他の事業者に委託する場合。特定運送委託は今回の改正で新たに加わった取引類型です。
建設工事に係る下請負(建設工事の再委託)。また、自社が使うために受ける役務——弁護士・会計士との契約や労働者派遣——も、他者に提供する役務ではないため対象外です。
自社が「委託事業者」になるかどうか
取適法は、発注する側を委託事業者、受注する側を中小受託事業者と呼びます。適用があるかどうかは、取引の種類と、両者の規模の組み合わせで決まります。
① 製造委託・修理委託・特定運送委託/情報成果物作成委託・役務提供委託のうち政令で定めるもの(プログラム作成、運送、倉庫における保管、情報処理)
② 上記以外の情報成果物作成委託・役務提供委託(設計や図面の作成などはこちら)
今回の改正で、資本金基準に加えて従業員基準が新設されました。常時使用する従業員数で、①は300人、②は100人が区分になります。従業員基準は、資本金基準が適用されない場合に適用されます。
見落としやすいのは、資本金1,000万円超の会社です
資本金が1,000万円を超えていれば、相手が資本金1,000万円以下の会社や個人事業主である限り、委託事業者になり得ます。大企業だけの話ではありません。図面を一人親方の製図業者に出している、資材の加工を小さな工場に頼んでいる。そういう取引が該当します。
委託事業者になったときに求められること
義務 1
発注後、直ちに書面等で内容を明示する(4条明示)
給付の内容、納期、代金の額、支払期日などを明示します。電話だけの発注は明示義務違反とされています。緊急でやむを得ず電話で伝えた場合も、直後に明示が必要です。
義務 2
支払期日を、受領日から60日以内に定める
役務の提供を受けた日、または物品を受領した日から起算して60日以内です。支払期日を定めなかった場合は、受領日が支払期日とみなされます。「月末締め翌月末払い」のように具体的な日が特定できる定め方は認められますが、「納品後○日以内」は認められません。
義務 3
取引の記録を作成し、2年間保存する(7条記録)
発注内容、単価、納期を明示した写しだけでは足りません。給付内容を変更した場合や、代金の額が後から確定した場合の経緯も記録の対象です。
義務 4
代金は、期日までに全額を現金で受け取れる形で支払う
今回の改正で手形払い等が禁止されました。支払期日に金銭を受け取るために相手方が割引を受ける必要があるものは、支払遅延として扱われます。
悪気なくやってしまいやすい行為
公正取引委員会のQ&Aから、建設会社でも起こりやすいものを挙げます。いずれも本法違反となる、または違反となるおそれがあるとされているものです。
- 振込手数料を代金から差し引く。相手方の了解を得ていても、代金の減額として問題となります
- 「歩引き」「手数料」の名目で差し引く。契約書で事前に合意していても同じです
- 単価の引下げを、過去の発注分にさかのぼって適用する。合意があっても代金の減額(遡及適用)となります
- 作業量が増えたのに、見積りを取り直さず当初単価のまま発注する。買いたたきに該当するおそれがあります
- 金型や型枠を無償で長期間保管させる。発注を長期間行わないのに保管費用を払わない場合、不当な経済上の利益の提供要請に該当するおそれがあります
今回の改正で新設された「協議に応じない一方的な代金決定の禁止」
相手方から代金引上げの求めがあったとき、協議に応じず、必要な説明や情報の提供もしないまま代金の額を決めることが禁止されました。要請された額を全部受け入れる必要はありませんが、受け入れられない場合はその理由と根拠を十分に説明することが求められます。協議の経過は、記録に残しておく形が望ましいとされています。
違反があった場合、公正取引委員会から勧告が行われることがあります(第10条)。勧告の内容には、差し引いた額の支払いや遅延利息の支払いのほか、取締役会での決議、社内研修などの体制整備、取引先への通知も含まれ得ます。
建設業法との関係を、一度整理します
工事の下請けは建設業法、それ以外の委託取引は取適法。この線引きが基本です。そして建設業法の側も、令和7年12月から見積書・労務費のルールが強化されています。どちらの側でも、発注内容と代金の根拠を書面に残しておくことが守りになる、という点は共通しています。
よくあるご質問
建設工事の再委託には取適法は適用されません。ただし建設業法側で、不当に低い請負代金の禁止や見積りに関するルールが適用されます。「どの法律も掛からない」という意味ではありません。
資本金基準は「1,000万円超」から始まります。1,000万円ちょうどであれば資本金基準では委託事業者に当たりません。ただし従業員基準が別に設けられているため、資本金基準が適用されない場合はそちらで判断されます。
公正取引委員会は、確認する義務はないとしています。ただし、従業員数の変動が多い相手方や、基準付近の相手方に発注する場合は、積極的に確認することが望ましいとされています。見積依頼書や見積書の備考欄でやりとりする方法が例として挙げられています。
該当しない場合もあります。たとえば自社の拠点間の運送や、産業廃棄物をその処理のために運搬する場合は、通常は特定運送委託に該当しないとされています。取引の中身によって判断が分かれる部分です。
個別の該当性は取引の実態で判断されます。公正取引委員会のQ&Aと中小受託取引適正化法テキストが公開されているほか、公正取引委員会に相談窓口があります。工事の請負とそれ以外の切り分けからでよければ、当事務所でもお話をうかがいます。
この記事で参照した資料
- 公正取引委員会「よくある質問コーナー(取適法)」
- 公正取引委員会・中小企業庁「中小受託取引適正化法テキスト」(令和7年11月)
- 製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律(令和7年法律第41号による改正・令和8年1月1日施行)
工事以外の外注が、どの法律の話なのかを整理したいときは
相談は無料です。お手元の書類は、スマホで撮った写真を送っていただく形で構いません。契約書や注文書を見せていただければ、そこからお話しできます。
営業のお電話はお断りしています。
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